
Tebiki で CTO をしています渋谷(@shibukk)です。
先日、Don’t Hire Juniors to Write Code, Hire Them to Become Seniors という記事を読みました。AI がコードを書くようになった世界で、若手エンジニアを採用し、育てることをどう考えるのか。読んでいて、自分たちがいま向き合っている問いとも重なるところが多かったので、私たちのポジションをちゃんと書いてみたいと思いました。
私たちの考えは、シンプルです。
AI によってコードを書くことの意味が変わってきているからこそ、エンジニアを育てることに、これまで以上に向き合う必要がある。そして Tebiki は、製造業の現場で人が育つ仕組みをつくろうとしている会社だからこそ、自分たちの開発組織でも、人が育つ仕組みをつくっていきたいと考えています。
問うべきは「若手を採るか」ではない
ここ数年でソフトウェア開発の前提は大きく変わりました。Codex や Claude Code を使えば、既存コードを読み解く、実装のたたき台を作る、バグを修正する、テストを追加するといった作業を、より少ない人数で、より短い時間で進められるようになっています。
すると、採用や育成の考え方も揺らぎ始めます。AI がコードを書けるなら、若手を育てるより、経験豊富なシニアエンジニアが AI を使って開発した方が早いのではないか?
短期的な開発生産性だけを見れば、合理的な判断に思えるかもしれません。
ですが、自分はこの問いに少し違和感があります。
本当に問うべきなのは「若手を採るべきかどうか」ではなく、AI を前提とした開発の中で、私たちが「人を育てる」ことの意味をどうアップデートし続けるかだと思うからです。
育成の「入口」がなくなりつつある
AI によって変わったのは、開発生産性だけではありません。もっと本質的なのは、若手が経験を積んできた「入口」そのものが、なくなりつつあることです。
これまでは、小さなバグ修正や画面改修を通じて、コードベースの読み方、レビューの受け方、設計の考え方、ユーザーへの影響の測り方を少しずつ学ぶ機会があり、判断力や設計の勘所は、そうした作業の積み重ねの中で培われていました。
ところが、その一部を AI が担えるようになると、自然に経験を積める機会そのものが失われていきます。そこを AI が肩代わりするなら、放っておいても育つという前提は崩れます。だからといって、AI に任せられる仕事を育成のためだけに残すべきではありません。AI によって仕事の形が変わること自体は、受け入れていく必要があります。
つまり、これからの育成で問われているのは、AI にも任せられるようになった仕事を残すことではなく、仕事が変わる前提で、どう経験を積めるようにするかを設計し直すということです。
松下幸之助の「人をつくる」を考える
そんなことを考えているうちに、昔の経営者たちは人材をどう育成していたのだろう、と気になって調べてみました。そこで見つけたのが、松下幸之助の言葉でした。
「松下電器は何をつくるところか」と尋ねられたら、「松下電器は人をつくるところです。あわせて電気器具もつくっております」と答えなさい。
電気器具をつくる会社でありながら、まず人をつくる会社だと言い切っているところに、この言葉の価値があるように思います。どれだけ資本や設備や技術があっても、それを活かす人が育っていなければ事業は成り立たない。そういう意味での「事業は人なり」です。
加えて、ここでいう「人をつくる」とは単にスキルのある人を増やすのではなく、仕事の意義や社会への貢献を自覚し、自主性と責任感を持って働ける人を育てることだと説明されています。*1
この考え方は、AI がコードを書くようになった今の開発組織にも通じる部分が多くあります。
プロダクトをつくることのハードルが下がるほど、私たちにとって重要になるのは、何を作り、何を作らず、どこまでを AI に任せるのかを判断できる人を育てることなのだと思います。
現場で人が育つ仕組みをつくる
人が育つ仕組みをどうつくるかは、Tebiki が向き合っているテーマそのものでもあります。
毎回説明の違う OJT を、標準手順にもとづいた育成に変える。保有スキルを可視化し、育成につなげられる形に変える。品質トラブルが起きたときも、誰のせいかではなく、どの手順をどう変えるかを最初に考えられるようにする。
私たちが作っているのは、動画マニュアルを管理するソフトウェアではありません。現場の行動を変え、人が育つ仕組みをつくり直すプロダクトです。
こうした行動変容は、コードを書くだけでは起こせません。AI を使えば実装の速度は上がりますが、どの現場の、どの行動を、どの方向に変えたいのかは、人が考え続ける必要があります。
完成度より、伸び方を見る
この前提に立つと、採用で見るべき観点も変わります。重要なのは今の完成度だけではありません。私たちは、数年後に Tebiki の事業へ大きなアウトカムを出せる人かどうかを見ています。
経験や技術スタック、ドメイン知識は、機会と学習で埋められます。一方で、構造を理解し言語化する力、責任を引き受ける力、フィードバックを受け取る力、顧客への好奇心は、短期間では簡単に身につきません。私たちが見たいのは、こうした「構造的に埋まりにくい不足」がどこにあるかです。
AI を使えば、面接課題や実装課題の外見は整いやすくなります。だからこそ、なぜその判断をしたのか、何を理解していて何をまだ理解していないのか、フィードバックを受けてどう考えを更新するのかを見る必要があります。採用する側も、その「伸び方」を感覚ではなく言葉にしなければなりません。
では、思考の伸び代を見て採用した後に、どう育てるのか。私たちもまだ完成した答えを持っているわけではありません。ただ、そのための取り組みは進み始めています。
たとえば Tebiki では、少人数のチームの中で課題の発見から設計、実装、リリースまでを主導するロールを置くようになりました。
責任範囲を広げ、何を作り、どう届けるかを引き受ける機会を増やす。こうした経験をどう意図して設計するかが重要だと考えています。
製造業に向き合う会社だからこそ
製造業の現場ではこれまで、長い時間をかけて人が育ち、技能が継承され、改善が積み重なってきました。熟練者の手の動き、工程ごとの判断、違和感への気づき。こういったものは、人が現場で経験し、失敗し、教わり、任され、改善する、その積み重ねの中で育っていきます。そうやって現場は強くなってきました。
もちろん、製造業の育成にも大きな課題があります。属人化、OJT のばらつき、熟練者への依存、教育コストの高さ。私たちは、そうした課題を解くために Tebiki を作っています。
しかし、それは「人が育つこと」を否定するものではありません。むしろ、人が育つ仕組みを、もっと再現性のあるものにするための挑戦です。
プロダクトづくりの形が変わりつつある今だからこそ、事業を前に進めるのは、問い、判断し、責任を引き受ける人です。
製造業の現場に向き合う会社として、顧客の現場にも、自分たちの開発組織にも、人が育つ仕組みをつくっていきたいと、そう考えています。
人が育つ開発組織づくりや、製造業の現場を変えるプロダクト開発に興味がある方は、ぜひ一度カジュアルにお話しさせてください。